イベント報告

宇都宮大学国際学部附属多文化公共圏センター(CMPS) 学長支援プロジェクト「福島乳幼児・妊産婦支援プロジェクト(FSP) 2011年度報告会 『原発事故後の福島乳幼児・妊産婦の今、これから』

日時:2012年2月20日(月)13:00〜17:00

場所:宇都宮大学峰キャンパス 基盤教育B棟1223教室

【プログラム】
13:00 開会挨拶
13:10 報告会の趣旨 
    重田康博(多文化公共圏センター長、国際学部教授)
13:20 基調講演「福島の今」
	二瓶由美子(桜の聖母短期大学)
	鈴木和隆(うつくしまNPOネットワーク)
14:20 プロジェクト報告(FSP, FnnnP Jr., FnnnP)
    「栃木・新潟・首都圏における福島乳幼児・妊産婦の今」
	プロジェクトの概要報告
	FnnnP Jr.の活動報告
	栃木・新潟・首都圏の乳幼児・妊産婦の状況・ニーズ
15:20 休憩(10分)
15:30 ディスカッション(司会:重田康博)
    「福島・栃木における乳幼児・妊産婦のこれから」
17:00 閉会挨拶 


問合せ:宇都宮大学国際学部附属多文化公共圏センター
〒321-8505 宇都宮市峰町350 TEL/FAX:028-649-5228
E-mail:tabunka-c@miya.jm.utsunomiya-u.ac.jp

⇒チラシ


                    講演会について

                               
                                                     記録:田口卓臣
                 

 この報告会は極めて内容の濃い会となりました。登壇者の皆さんは、各自の視点から原発事故による厳しい状況を
見据えつつも、それぞれの立場を超えて共にこの危機を乗り越えようとする姿勢を貫いていました。様々な深刻な問
題が浮き彫りにされたにも関わらず、報告会全体を通してポジティヴな雰囲気に満ち溢れていたのは、こうした真摯
な思いが共有されていたからでしょう。
 この会で提示された論点は多岐に渡りますが、以下の点では一定の共通了解が得られたように思います。
@当事者のひとりひとりに寄り添う支援の必要性。
A「逃げるべきだ」「留まるべきだ」という情報発信の無意味さ。
B最も弱い立場のひとたち(乳幼児・妊産婦)に、「逃げるか留まるか」という究極の選択を迫る現状の理不尽さ。
B避難者と残留者、避難者同士、残留者同士の間に生じている様々な分断の過酷さ。C前述の分断をもたらした国家
  行政の不作為、およびそれを後押ししている社会的な無関心。
Dただでさえ困難を極めるパーソナル・サポートを実現しづらくしている日本社会のシステム的問題。
 
  なお報告会の冒頭で、本学の進村武男学長、内山雅生国際学部長、重田康博多文化公共圏センター長よりそれぞれ
挨拶がありました。また、報告会に先立って12時から開催された記者会見では、多文化公共圏センター福島乳幼児・
妊産婦支援プロジェクト、うつくしまNPOネットワーク、福島乳幼児・妊産婦ニーズ対応プロジェクトによって実施さ
れた「福島県内未就学児アンケート調査」の結果報告が行われました。
  その詳細に関しては⇒こちらをご覧ください。


二瓶氏
●基調講演
 二瓶由美子さんの講演では、学生たちとともに福島に留まることを決断した
大学教員としての立場から、いまの福島で何が起きているのか、今後の日本で
何が必要となるのかということに光が当たりました。昨秋、チェルノブイリ視
察団に参加した経験に基づいて、国を挙げて放射能防護対策に取り組むベラル
ーシの現地情報が紹介されたうえで、放射能汚染を直視するリスクコントロー
ル教育の必要性、そして原子力問題を社会科学的に検証していく必要性が強調
されることになりました。最も印象深かったのは、二瓶さんがチェルノブイリ
博物館を訪れた時の経験談でした。「二十五年前の歴史的大惨事を語りつづけ
ようとする同館の指針に、現在と未来への祈りが込められている」という指摘
は、今後、長きに渡る放射能汚染のなかで生きていく私たちにとって、人知を
超える不確かな事態を前にして謙虚になることの切実さを問いかけてくるお話
しでした。
鈴木氏
 鈴木和隆さんの講演では、福島全域に広がる子育て支援ネットワークの中核を
担うNPO法人の立場から、今も避難と帰還をくりかえす福島県民の現状が紹介さ
れました。とりわけ子育て問題に関しては、親の育児不安、夫婦の共稼ぎ、地域
と子育て世代の関係の希薄化、支援政策の限界など、すでに以前から課題は山積
みであったことが確認されたうえで、とりわけ3.11以降、母子のみの県外避難が
増え、地域医療や地域社会の結びつきが崩れはじめたことで、いっそう問題が深
刻化していることが報告されました。こうした現状認識を踏まえたうえで、県外
に避難した人と県内に留まった人とが、お互いの選択を尊重しあえるような雰囲
気づくりの重要性が訴えられるとともに、新しい地方自治制度の創出(後述)、
子ども支援政策の充実といった社会全体のシステムの見直しを迫るような、具体
的な提言も示されることになりました。



●プロジェクト報告
  まず、本学の阪本公美子教員より、福島乳幼児・妊産婦に関わるFSP・FnnnPの活動の概要について説明があり、同プ
ロジェクトが「調査のための調査」ではなく、あくまでも当事者のニーズと支援対応とのマッチングを目的とするもの
であることが確認されました(本年報所収の活動報告を参照)。
 次に、本学の田中えりさん、濱田清貴くん、佐藤利津さんの報告では、学生ボランティアとしての立場から、福島県
から栃木県に避難してきた母子をサポートするFnnnP Jr.の活動が紹介されました。「当事者のために学生としてでき
ることは何か」という原点に立ち返りながら、避難所での聞き取り、住宅マッチング、引っ越しサポート、ママ茶会、
ちびっ子キャンプなどの活動について報告する初々しい三人の姿は、聴衆の皆さんの好評を博していました(同じく活
動報告を参照)。
 第三に、阪本公美子教員より、FnnnP栃木拠点長としての立場から、栃木県における福島乳幼児・妊産婦の受け入れ状
況について説明がありました。栃木避難所におけるニーズ調査、電話相談、ママ茶会、ちびっこキャンプなどの活動経
験に基づいて、父親が福島に留まり、母子だけで本県に逃げのびてきている世帯の現状に注意が促されたうえで、避難
先でのいやがらせ、生活情報の不足、家族や地域内での放射能に関する意見の不一致、行ったり来たりの二重生活によ
る経済的・精神的負担の蓄積など、避難母子を取り巻く幾多の困難に焦点が当てられました。阪本教員はこの現実を踏
まえて、最も脆弱な立場にある人が安心して暮らせる公的な体制をつくる必要性、さらには市民レベルでの暖かい受け
入れの必要性を強調しました。具体例としては、健康調査の拡充、民間借上げ住宅制度の再開、栃木県内に関する丁寧
な情報提供等が挙げられていました(本年報所収論文「原発震災を転換期として見直す開発のあり方」を参照)。
 第四に、本学の橋若菜教員より、FnnnP新潟拠点長としての立場から、日本で2番目に多くの避難世帯を受け入れて
きた新潟県の事例について紹介がありました。福島からの距離の割に汚染が低いこと、昔から多くの災害を乗り越えて
きたこと、原発立地としての柏崎市を抱えていること、在来のソーシャルキャピタルの層が厚いことなど、新潟県に固
有の諸事情が解説されたうえで、個別ヒアリングや全11回に及ぶママ茶会を通して見えてきた「自主避難家族」の苦悩
が報告されました。政府発表を鵜呑みにして子どもを被曝させてしまったことへの後悔、子どもが被曝を理由に差別さ
れるのではないかという不安、家族や友人と状況認識を共有できない疎外感、見知らぬ土地での生活不安など、母子の
みで孤立する当事者の危機的な現状を踏まえて、自主避難者への公的支援の必要性、自治体レベルでの支援の可能性に
ついて問題提起が行われました(詳細は本年報所収論文「新潟県における福島からの原発事故避難者の現状の分析と問
題提起」を参照)。
 最後に、FnnnP代表の舩田クラーセンさやかさん、同群馬拠点長の西村淑子さんより、首都圏・群馬・茨城の各拠点に
おけるニーズ対応プロジェクトの活動報告がありました。お二人の報告には、それまでの登壇者の皆さんの報告を補強
するような論点がいくつも含まれていました。@住宅ローンが残っている避難世帯は二重生活を強いられており、特に
避難先での生活実態はほとんど母子家庭と変わらないケースが多いこと。A家族からも地域からも切断された避難先で、
常時一対一で向きあうしかない母子のペアが孤立を深めており、避難の長期化と相俟ってカウンセリングの必要性さえ
生じているケースがあること。B避難世帯には総じて福島県内に残してきた家族・友人・知人への後ろめたい気持ちや、
同じ境遇の避難者との軋轢を恐れる気持ちが強く見受けられること。Cその結果、ひとりで自らの思いを堪えようとす
る福島県民の気質も手伝って、避難者と残留者の間にばかりでなく、避難者同士の間にも様々な分断が生じていること。
D首都圏(特に東京)では、在来のソーシャルキャピタルの層が薄く、生活費の高さや、保育先確保の困難さなどが避
難世帯の重い負担になっていること。E群馬では、逸早く弁護士会による自主避難者損害賠償への取り組みが始まった
ものの、肝腎の情報が当事者の元に行き渡っていないという点で課題が残されていること。以上、6つの問題点を踏まえ
たうえで、舩田さんより、「自主避難者」の権利保障、問題の長期化を見据えた息の長い対応、各地方自治体の支援担
当者間のネットワークづくり、当事者みずからが声を揚げられるような場の設定、当事者同士が互いに助けあえるよう
な支援の模索、当事者支援を通して社会的な信用に答える大学の責任と役割などについて積極的な提言が行われました。


パネルディスカッション
●ディスカッション
  基調講演に登壇した二瓶さん、鈴木さんのほかに、佐藤光洋さん、大竹信久
さん、石垣武さん、安藤正知さんがディスカッションの場に加わり、それぞれ
どのような立場から自主避難問題に関わってきたのかを紹介しながら、今後の
支援のあり方について率直に意見を交わしました。ここで出された論点も、こ
の問題の裾野の広さを実感させてくれるものばかりでした。以下、いくつかの
発言を引いておくことにします。

二瓶由美子さん:避難した世帯も、避難しなかった世帯も、どちらもそれぞれ
の場所で肩身の狭い思いをしている。世間は総じてこの問題に無関心であり、
国にも真摯な姿勢が感じられない。自分の所属する大学では、行政対応を待た
ずに除染を始めている。

佐藤光洋さん:行政は予算主義で動くので、どんなサービスであっても、その実現には時間がかかってしまう。今回の
ようなケースでは、ボランティアの人と共に支援に当たるのが現実的であり、その官民一体の関わりのなかでよりよい
支援を模索していきたい。

石垣武さん:震災直後は避難問題への社会的関心は高かった。ところが報道の減少に伴って、その関心が薄れてしまっ
た観がある。まるで栃木県内だけでも3,000人近くいる避難世帯の苦悩が雲散霧消したかのようだ。もっと広くこの危
機的現状を伝えていかなければならない。

鈴木和隆さん:ただでさえ困難に直面している当事者が、行政に直接意見するのは決して簡単なことではない。だから
民間組織が間に入って当事者の声を集約していかなければならない。今後必要になるのは、目に見える支援よりも、こ
うした目に見えない人と人の間をつなぐ支援ではないか。

大竹信久さん:最近は男性からの不安相談が多い。女性同士は互いにコミュニティーを形成しはじめていて、少なくと
も震災直後に比べれば安心して見ていられる。今後は男性の精神的ケアのほうが重要ではないかと考えている。

安藤正知さん:避難世帯の母子は、栃木県内での交流の場も増え、少しずつ新しい環境に適応しはじめているように見
える。いま心配なのは、むしろ父親の孤立のほうだ。父親たちが何を考え、何をしているのかがほとんど見えてこない。

 
  最後に記録者としてのコメントも補足しておきます。この報告会を通して、福島の避難世帯の母子が、概して家父長
制社会の頸木に苦しんでいるという現実は明確にできたと言えるでしょう。その一方で、父親もまた「家父長」として
の役割を担わされることで、この制度の沈黙せる犠牲者になっているという点に関しては、ほとんど注目されることが
ありませんでした。この意味で、「男女差別」という分かりのよい言葉ではとうてい捉え尽くせないこのシステムの深
い病根を示唆する指摘が出てきたことに、私自身、妻子三人を避難させたひとりの父親として励まされる思いでした。


●フロアからの声
 福島県保健福祉部の佐藤伸司さんより、県内外での子育て支援の仕事に携わる立場から、「避難するという決断に自
信を持てなくなっている自主避難者たちに対して、『よくぞそれだけ重い決断をしたね』とねぎらいの言葉をかけてあ
げてほしい」という発言がありました。
 下野市母子保健課の奥村環さんより、保健師としての立場から、「下野市では乳幼児の予防接種や健診にあたって、
『下野市民か避難者か』ということで区別はしていない。避難母子には直接声かけしたり訪問したりしながら、この情
報を伝えてきた。また、必要に応じて支援対策も講じてきた。行政特有の縦割り構造ゆえに不便が生じることもあるか
もしれないが、何とかそれを乗り越えていきたい」という説明がありました。
 那須塩原放射能から子どもを守る会の手塚眞子さんは、那須で子育てに従事する住民としての立場から、「栃木県北
部の放射線量はきわめて高いにも関わらず、『福島』ではないというただそれだけの理由でほとんど注目されてこなか
った。この点についてもっと皆さんに関心を持ってほしい。もちろん福島の問題に関しては、同じ当事者として共感で
きることもあるので、つながれる部分でつながっていきたい」と語っていました。
 早稲田大学の西川潤さんから講演者の鈴木さんに対して、「新しい地方自治制度の創出」とは具体的に何を意味する
のかという質問が出されました。鈴木さんは次のように答えました。「震災以降、埼玉県内に双葉町の役場が置かれる
ことになった。ひとつのコミュニティーのなかに、もうひとつのコミュニティーができるという非常事態が今も続いて
いる。現行の地方自治制度はこの状況に対応できているとは言いがたい。どこかの場所を間借りして、福島からの移住
者だけのコミュニティーを確保するような試みがあってよい。こうした試みは、現行の地方自治制度、ひいては日本社
会全体のシステムに変革を迫るものになるのではないか。」
 西崎伸子さんは、FnnnPの活動と連携してきた福島大学の教員としての立場から、自分自身が福島に住む当事者である
にも関わらず、避難希望者を支援する側にまわらざるをえなかった苦しい経緯をふり返りながら、「ひとりひとりに寄
り添う」というFnnnPの理念にどれほど励まされたかを感謝を込めて語っていました。これに加えて、「今は避難する人
の支援にばかり注意が向きがちで、避難先から福島に戻ってくる人たちへのケアがおざなりになっている」という現場
ならではの貴重な証言も提示されました。

 
 なお、6時から開催された懇親会では、報告会の司会を務めた本学の清水奈名子教員の呼びかけで、清水ゼミの皆さん
が中心となって、汚染リスクの低い食材を用いた手作りの料理を提供してくれました。こうした特別な懇親会が催され
たということも含めて、たいへん有意義な報告会になったと思います。手料理の準備に当たられた清水教員とゼミ生の
皆さん、そして何よりその場に残って親睦を深めあった登壇者の皆さんに厚くお礼申し上げます。


                                                          以 上
        




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