イベント報告

   <宇都宮大学生国際連携シンポジウム2012>
     ベラルーシから学ぶ私たちの未来
〜チェルノブイリ原発事故と福島原発事故を振り返る〜

 

日時:2012年12月11日(火)12:50〜17:10

場所:宇都宮大学峰キャンパス 基盤教育B棟1121教室


<プログラム>総合司会:加戸廉矩(工学部機械システム工学科3年、FnnnP Jr.)

12:50 挨拶       進村武男(宇都宮大学学長)
             内山雅生(宇都宮大学国際学部長)
13:00 基調講演「ベラルーシの経験を踏まえて日本で応用する力を〜国や民族の違いを越えて」
            辰巳雅子(チロ基金代表、ベラルーシの部屋主宰)
14:20 休憩(質問票回収)
14:30 パネル・トーク「辰巳さんと4学部横断トーク〜ベラルーシと日本をみつめる〜」
           司会  田口卓臣(宇都宮大学国際学部准教授)
      パネリスト 辰巳雅子           
            加戸廉矩(工学部機械システム工学科3年、FnnnP Jr.)
            田中えり(国際学部国際社会学科3年、FnnnP Jr.)
            水庭誼子(農学部森林科学科3年)
            佐藤聡太(農学部農業環境工学科2年、FnnnP Jr.)
            平松 舞(国際学部国際社会学科2年)
            青蜷逡艨i教育学部総合人間形成課程1年)
    コメンテーター 重田康博(宇都宮大学国際学部附属多文化公共圏センター長代理、教授)
    フロアからの質問票への回答
16:00 休憩
16:10 参加者によるグループトーク
16:30 各グループの発表、質疑応答
17:00 閉会の挨拶   茅野甚治郎(宇都宮大学理事)、重田康博
17:10 閉会日時


⇒チラシ


               講演会について

                                              報告:田口卓臣  この講演会は、3.11原発震災以降、ますます複雑化しつつある放射能汚染の問題に関して、様々な視点から光 を当てる貴重な機会となりました。合計で130名の聴衆が本学に来場し、辰巳雅子さん、そして学生パネリストの 皆さんが語る言葉に真剣に耳を傾けていました。会の模様に関しては、とちぎテレビ(12月11日夜、12日早朝)、 下野新聞(12月12日朝刊)、東京新聞(12月15日朝刊)で取り上げられました。この日のためにはるばるベラル ーシから来日され、長時間に渡って私たちにお付き合いくださった辰巳雅子さんに心から御礼申しあげます。ま た、自主的な勉強会を積み重ね、最後まで手を抜かずに企画の準備をしてくれた学生パネリストの皆さんの尽力 にも感謝します。なお、会の冒頭で進村武男学長と内山雅生国際学部長から、会の締め括りで茅野甚治郎理事か ら挨拶の言葉をいただいたことも申し添えておきます。

辰巳さん ●第一部 基調講演  辰巳雅子さんの基調講演では、長年に渡り被曝児童の支援に携わってき た立場に基づいて、チェルノブイリ原発事故と福島原発事故に見られる類 似点や相違点に関する様々な角度からの報告がありました。そもそも「チ ェルノブイリ原発事故とはどのような事故だったのか?」という問題提起 から始まり、当時の事故状況・汚染状況、ソ連政府による対応策や事実隠 蔽、汚染地域からの強制移住者を取り巻く諸問題等が紹介されたうえで、 ソ連と日本における体制や考え方の違いに関して、綿密な比較と分析が示 されました。辰巳さんによれば、社会主義国家のソ連では、国民全員がい わば「国家公務員」のようなものだったので、家、財産、所有物は個人の 所有権に属するものとはみなされていませんでした。このため、いちど移 住を強制された世帯の家は、有無を言わさず埋め立てられてしまいました。 これに対して、個人の所有権を尊重しているかに見える日本では、各個人 による重い決断(その典型は「自主避難」)を「自己責任」と捉える考え方によって、ソ連時代には見られなかっ た複雑な問題が起きています。これらの差異が丁寧に踏まえられたうえで、被曝者差別、食材をめぐる対応策、 健康被害の認定、原発事故処理作業員へのケア、放射線リスクに関する教育体制、民間研究機関における体内被 曝の測定体制、食品や建築資材に関する放射線基準値の設定など、数多くの話題が取り上げられることになりま した。  私にとって最も印象に残ったのは、「健康か? 経済か?」という性急な二分法は慎むべきではないか、とい う辰巳さんのメッセージでした。辰巳さんによれば、チェルノブイリ原発事故後のベラルーシは、国外からの医 療支援等に依存するあまり、自らの「国力」によって問題を解決する能力を失ってしまったといいます。もちろ ん、個々人が体内の被曝や複合汚染を少しでも軽減し、自分の健康を守ろうとするのは大切なことです。しかし、 それと同時に、何でも「国外」の食材や医療支援に頼ろうとするのではなく、試行錯誤を重ね、日本独自の対応 策を作りあげていく必要があるのではないか… 辰巳さんはこの観点をくりかえし強調していました。  日本のケースでは、大震災、大津波、原発事故という三重苦が一息に襲いかかってきました。このため、一口 に「問題解決」と言っても、そう簡単には行かない状況があります。とはいえ、リスクを避ける方法を、生活習 慣そのもののなかに取りこむことで、過度に被曝を恐れる必要はなくなるはずです。そのための様々なアドヴァ イスとヒントが、辰巳さんの話の随所に散りばめられていました。
パネル・トーク ●第二部 パネルトーク  この部では、本企画の準備を進めた6人の学生パネリストたちが、自主的 な勉強会を通して考えたことを発表したうえで、それぞれの発表内容に関 して、辰巳さんからのコメントが寄せられました。  まず、加戸廉矩さんより、工学部学生としての視点に立って、福島にお ける東電原発の原子炉の仕組み、放射性核種の種類・用途・毒性等に関し て、みずから調査した内容に基づく発表が行われました。  水庭誼子さんからは、農学部で森林・林業を学んできた立場に基づいて、 ベラルーシやウクライナでの木材等の汚染許容値が紹介されたうえで、深 刻な汚染に見舞われた栃木県の県北地域の現状が報告されました。  佐藤聡太さんは、同じく農学部学生としての視点に立って、放射線によ る内部被曝の仕組み、食材の汚染測定の方法等に関する調査内容を発表し たうえで、「食による被曝を避けるためにはどうすればよいのか」という 問いを投げかけました。  平松舞さんは、国際学部で社会科学を学んできた学生として、特に1994年以降のベラルーシにおけるロシアの 政治・経済・電力への依存の仕組み、および原子力発電所の建設計画をめぐって報告を行ないました。  青柳千穂さんからは、教育学部学生としての観点に基づいて、新潟水俣病をめぐる「教師用指導資料集」、福 島原発事故以降に作成された文部科学省による「放射線に関する副読本」、福島大学による「放射線を被ばくの 問題を考えるための副読本」の内容をそれぞれ比較検証した発表が行われました。  最後に、田中えりさんからは、原発避難世帯の支援に携わってきた視点に立って、福島原発事故以降の「強制 避難者」と「自主避難者」の間に生じた分断の現状に関する報告がなされたうえで、これまで一貫して無視され 続けてきた「県内自主避難」の問題に光が当てられることになりました。  6人の学生パネリストたちは、各自の発表の後で、そのつど辰巳さんに以下のような質問を投げかけました。  1)原発建設にまつわる一番の問題点とは何か?(加戸さん)  2)ベラルーシにおいて、林業従事者や林産物生産者はどのような問題に直面したのか?そしてそれに対する 公的支援はどのように実施されたのか?(水庭さん)  3)「ベラルーシの部屋ブログ」では、たくさんの被曝シャットの方法が紹介されているが、特にお勧めの対 策は何か?(佐藤さん)  4)ベラルーシにおける原発建設計画は、隣国のリトアニアから反発を受けているようだが、両国間には以前 から軋轢があるのか?(平松さん)  5)ベラルーシではどのような放射線教育の体制が組まれているのか? また、一般に放射線教育とは、どの ような仕方で実施されるべきか?(青柳さん)  6)ベラルーシにおいて、日本のような「強制避難者」と「自主避難者」の分断は生じたのか? 避難区分に よって、当事者への支援・補償の差異や問題点は生じなかったのか?(田中さん)  辰巳さんが6人への応答の中で言及した話題は、極めて多岐に及びました。その詳細に関しては、本年度中に 公刊される正式な報告書の中で紹介したいと思います。基調講演とグループトークの内容に関しては、会場で配 布された別添えの資料(PDFファイル)もあわせてご覧ください。 ⇒配付資料(学生発表レジュメ)
  
 なお、以上のやりとりを受けて、本学の重田康博教授より、創設以来の多文化公共圏センターの活動に携わっ てきた立場から、早くも忘却されはじめている原発事故と放射能汚染に関して、くりかえし想起し、検証しなお すことの必要性が強調されました。ともすれば「問題」を問題として直視しようとしない社会環境の中で、大学 の側から公共的な議論を躍起していく意義が再確認されることになりました。  以上のプログラムの終了後、最後まで会場に残ってくださった方々をまじえて、講演会の内容をざっくばらん に振り返るグループ・トークの時間が設けられました。 以上



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